Hakutsuru, Narita

Chicago Branch Narita presents
Hakutsuru Brewery

白鶴酒造

もはや言わずと知れた日本国内の日本酒生産、販売のトップに君臨する白鶴酒造。かつては4000以上、現在では2000蔵以下と減り続けている全国の酒蔵において、その年間販売石高は約339500石 (61,100kl.1石=0,180kl) と、全国の日本酒生産量の30%を担う兵庫県を常にリードしている。

創業1743年という260年以上の歴史を持つ同社は、鎖国の時代、日本酒文化が伊丹から灘へと 酒造りにより適した立地へと移り変わっていった「灘酒」を代表するメーカーである。江戸時代に日本酒ブームが一気に庶民に広がったと言われる当時、大阪から江戸まで運ばれてきたこの灘の酒が圧倒的な人気を誇ったという。

酒造りに最適とされる寒さの厳しく、優良な酒米に恵まれたこの地より「灘酒」の名声を全国に広めた要因の一つに霊水<宮水(みやみず)>(西宮の水が略され宮水となる)が挙げられる。灘の井戸より汲まれ、国内では珍しい硬水にあたる宮水。酒の透明度や香味を損なう鉄分が少なく、カルシウム、カリウム等のミネラルが多く含まれ、長期に渡る醸造や流通にも耐え得る強い水とされている。当時の海路流通に恵まれ繁栄したこの地域より江戸に運ばれる過程において、その高度な品質の維持を可能にしたのも、宮水で仕込まれた酒の成せる技なのである。

白鶴酒造は様々な酒米を使い分ける技術を持つ他、独自の研究を重ねた結果「白鶴錦」を開発、 2007年には品種登録が受理された。まず通常、酒造メーカーが自ら酒米の品種開発を行う事は無く、そのこだわりは半端な物では無い事が窺われる。「白鶴錦」は酒米の王者とも謳われる「山田錦」の母にあたる「山田穂」と、父にあたる「短桿渡船 (たんかんわたりぶね)」とを独自に交配させた「山田錦」の兄弟品種である。まずは、幻の米とされていた「山田穂」の復活を成功させ、酒米の最高品種「山田錦」を凌ぐ可能性を得た同社の酒造りの挑戦は続いている。

「米・水・人が原点です」と謳う白鶴酒造。「人」が微生物を巧みに操り醸造される日本酒、その最高技術責任者が杜氏であり、同社の場合「丹波杜氏」がその役目を担う。灘酒の飛躍的な発展を支え、醸造期間の短縮等、高度な技術を時代と共に進化させてきた立役者が丹波杜氏である。現在の酒造技術の発展に大きな影響を与え、まさに進化を止まない白鶴酒造の意志の中枢であると、勝手ながら感銘を受けざるを得ない。

1964年東京オリンピック開催の年に建設された3号工場は、年間を通じて酒造が行われる四季蔵であり、同社の誇る最先端技術と伝統技術とを駆使し、高品質な清酒の生産が保たれている。精米された酒米を洗い、品種によって浸水時間を変化させている。浸水後は連続した25分間の蒸米作業により、米のでん粉を糖分に変え易くする。蒸して冷やされた米に麹菌を吹き付け二日ほど掛けて麹が出来上がる。その麹に水と蒸米 (掛け米)、さらに乳酸を加え、酵母の培養を短期間で進める事が出来る速醸酛という手法を用いている。これは明治時代に編み出された手法で、現在では主流となっている。さらに、添・仲・留の三段仕込みから徹底的な温度管理によって、清酒の元となる醪を造りだす。熟成させた醪を搾り、酒粕と分離された物が清酒となる。酒によって異なるが、約10ヶ月程掛かる造酒のうち半年間は貯蔵され、熟成されてから世に出される。

日本酒の醸造工程は極めて複雑であり、実際に現場を覗き、工程を辿っていく事で、ようやく理解に至る事が出来る。醸造の仕組みとしては、酒造が始まった当時と変わらないというが、それぞれの工程で用いられる新技術や機械等は、同社の伝統に基づく、こだわりと技術に見事に調和されている。

白鶴酒造の沿革を拝見すると、それぞれの時代における進化に驚愕する。 1900年にパリ万博に瓶詰酒を出品し、翌年1901年には日本初、そして以来主流となる一升瓶での販売が行われる。1952年には、日本初の鉄筋コンクリート工場の二号蔵、さらに1964年に四季蔵となる三号蔵を竣工させた。1977年には、ニーズに敏感に合わせた紙容器を早くも導入する。2003年には海外営業部を新設し、今海外においても絶大な人気を誇っている。

「時をこえ 親しみの心をおくる」これは1979年に鶴のシンボルマークとともに設定された、同社のスローガンである。激動の時代においてもニーズに合わせ、酒造りを進化させる白鶴酒造であるが、技術の向上に貪欲な丹波杜氏の志を持つ白鶴の酒造りが、逆に新たな時代へと我々を導いている様だ。伝統を重んじ、時をこえて留まる事を知らない、まさに白鶴の飛躍である。

白鶴 上選 淡麗純米のご紹介

今人気の香り高い吟醸酒も最高ですが、今回は料理と日本酒とのバランスを取り易い、こちらの純米酒のご紹介です。まず辞典にも載っていないこの「淡麗」という言葉。味覚を文字や言葉で表現する機会が多い、極めて繊細な食文化を持つ日本特有の表し方で、「濃醇」の対義語になります。

この「淡麗」という言葉を品名に用いた白鶴淡麗純米をさらに表現するならば、「淡」=さっぱりとした中にほのかな米の旨み。「麗」=爽やかでキレのある後味。一般的には濃醇と言われる純米酒ですが、こちらは大変なめらかで飲み飽きない爽快感を覚えます。

冷やから燗まで幅広く楽しめる淡麗純米は、繊細な日本料理の味も邪魔せず、逆に素材の風味の引き立て役となってくれます。

燗にして飲めば純米酒らしい味が口一杯に広がり、絶妙な辛口具合が舌から咽へと駆けていきます。焼き魚、コクのある煮物や鍋、また洋食との相性も意外にピッタリです。

とっくり型をした緑色の瓶の蓋を取り、電子レンジでお好みに合わせて40秒以下の範囲でぬる燗から熱燗まで気軽に楽しめてしまうのも、このお酒の嬉しい所です。

是非皆さんのお好みで、季節や料理に合わせて楽しんでみてください。

白鶴 上選 淡麗純米 180ml 

参考文献
灘酒研究会 (1997)「灘の酒 用語集」
白鶴酒造株式会社 (1998)「酒学読本」
「白鶴酒造株式会社」  (2011/2/20アクセス)